ポルシェケイマン981型のアルカンターラ天井が垂れてきた、天井生地が剝がれてきた、浮いてきたという症状は珍しくありません。
このページでは、ポルシェケイマン981型の天井が剥がれる原因と修理の費用目安、実際の施工工程まで、天井張替え職人の視点から詳しく解説します。

1 天井剥がれ・垂れ・浮きの原因

原因は天井の裏面に溶着されているウレタンスポンジの加水分解によるものです。加水分解とはその字のごとく、水分子が反応物や化合物の結合部位に入り込むことにより反応物の結合を切る(分解する)化学反応の事で、熱が加わることにより反応速度が速まります。
自動車の天井の場合、6月の梅雨時に天井材であるウレタンが保湿し、7月の厚さで化学反応が促進されます。それを何年も繰り返すうちに天井生地を維持することが出来なくなり垂れ・剥がれ・浮きが発生します。同じ車種・型式でも自動車の保管状況により反応速度が変わります。

2 天井剥がれ・垂れ・浮きの対策

予算・工期・仕上り品質によっていくつかの対策がありますので、順に説明致します。オーナー様のご予算やこだわりに合わせてその対策を選択されるのがベストです。

① 低予算(1000円以下)ピン留め

ディーラーや専門業者に施工を依頼するのではなく、ご自分で修理する方法です。ホームセンターで虫ピンや待ち針そしてタッカーを購入し、天井の剥がれ・垂れ・浮きの部位に刺して留めます。純正のような見栄えにはなりませんが、綺麗に整列させて刺すとかなり綺麗に仕上がります。
※注:アルカンターラ素材の場合、針で刺すと穴が開いてしまう為、将来的にしっかり修理しようとお考えの方はこの方法は行わず速やかに専門業者やディーラーに相談されることをお勧めします。

② 中程度予算(7~12万円)天井張替え専門業者に直接修理依頼

当店のような天井張替え専門業者をネット等で見つけ、その業者に天井修理を依頼する方法です。ディーラーに依頼するより低予算で済む一方、以下のようなデメリットがございます。
・ その業者の技術力をネットの情報だけでは確かめられない
・ 良いと思った業者がオーナー様の近隣にあるとは限らない
・ ファブリック素材の場合、純正と若干の色味の違いが発生する。

③ 高程度予算(15~30万円)ディーラーに修理依頼

正規ディーラーに天井修理を依頼する方法です。メリットとデメリットは以下の通りです。
【メリット】
・ ネット等で天井張替え専門業者を探す手間が無い
・ メーカーの方でまだ天井の供給が続いていれば純正天井と交換できる
・ メーカーの供給が終了していた場合、ディーラーは当店のような専門業者に張替えを依頼しますが、
  その仕上がり品質は専門業者ではなく、ディーラーが責任を持ってくれる
・ オーナー様の近隣ディーラーに依頼出来る

【デメリット】
・ 新品交換でも張替えでも施工金額が高価になる
・ 修理日数がかかる

以上、天井剥がれ・垂れ・浮きでお悩みのオーナー様の少しでも参考になれば幸いです。

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今回のお客様は上記対策の中程度予算をご選択され、当店にご依頼頂きました。具体的な作業内容を紹介させて頂きますので、ご興味のある方はご閲覧頂ければと思います。

■ 施工前チェック

施工に入る前に毎回施工前チェックを行います。助手割引の場合はお客様と一緒に、お客様がいらっしゃらない場合はケースバイケースで撮影を行います。作業に入る前にチェックを行う事で施工後の問題点の切り分けが出来、お客様も当店もスッキリ作業を終わることが出来ます。主なチェック項目と対応は以下の通りです。

・室内灯の点灯確認
特にサンバイザーのバニティーランプはあまり使われないお客様もいて、点灯するかどうかわからないという場合もございます。また長く使用していない場合接点に酸化被膜が溜まり、問題が無くても点灯しない場合もございます。いずれにしても点灯しなかった場合、何度か開閉を行い酸化被膜をワイピングにより除去し、それでも点灯しなかった場合は天井を車外に出した後、ランプが切れていないか、断線が無いかの確認を行います。

・天井生地の垂れ具合確認
天井生地が大きく垂れて部品を外すとシートまで垂れてしまう恐れがある場合はタッカーを打って暫定対策を行います。あくまでも天井を車外に取り出すまでの対策です。これを行う事により部品の取り外し作業時垂れて来た生地を頭からかぶってしまう等の問題を回避できます。

・劣化ウレタンのこぼれ状況確認
剥がれて垂れて来た天井生地の隙間から劣化ウレタンがポロポロこぼれて、シートやフロアに飛散していた場合、そのまま作業を進めてしまうと繊維の隙間にベトベトな劣化ウレタンを刷り込んでしまい、後のクリーニングが大変になります。まだこぼれて表面にいるうちに除去するのが吉です。

・メーターのアラート表示確認
エンジン起動時表示されるアラートの有無を確認します。当店ではアラートの解除は出来ませんが、施工後点灯したアラートが施工前からついていたアラートかを区別する為です。

・車内の傷確認
車内内装の内張りやガラスのフィルムに傷が無いか確認します。後部座席側の細かいフィルムの傷はオーナー様でもなかなか気づいていらっしゃらない場合も多いため、確認が必要です。

窓の向こうでは、息子とお客様がフォルクスワーゲンシャランの天井張替えを始めようとしています。本日は2台同時の天井張替えです。

ポルシェケイマン981天井張替え

■ 内装部品の取り外し

さていよいよ部品を取り外して天井を車外に引き出していきます。通常はAピラーは浮かすだけで外さないのですが、今回はAピラーも張り替えるためAピラーも完全に取り外します。ケイマン981型の場合Aピラーの下に樹脂プレートが付いていますが、これも外してしまった方が組み付け時楽になります。

ケイマン981型は取り外す部品が少ないのですが、ポイントをわかっていないと若干苦労するお車です。そのポイントとは、

  • マップランプユニット
  • 天井クリップ(後部)
  • 車からの引き出し方


の3つです。このポイントを理解していると比較的簡単に車外に取り出す事が出来ます。
とはいえ知恵の輪のような取り出し方をするため、写真の様に生地が折り返されていない天井の端部は車内に当たったり擦れたりして内装を傷つけないように養生テープで保護した状態で引き出します。

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■ クリーニング

天井の車外取り出しが成功したら次はクリーニング作業となります。地味な作業ではありますが一番重要な工程です。他のお仕事でも派手な部分よりもその前段階の調査や資料作りをしっかりやる事が、成功につながると思いますがそれと一緒ですね。
当店では以下の3段階でのクリーニングを行っております。

【第一段階】
金属ブラシを使用して劣化ウレタンを除去していきます。裏面と表面を行います。

【第二段階】
アルコール系溶剤で残った劣化ウレタンのベトベト成分を溶かしていきます。マイクロファイバーウエスを使用して手でふき取っていきますのでゴム手袋をはめての作業となります。

【第三段階】
マップランプユニットやアシストグリップ等、へこみ部分はさらに強い溶剤で純正で使われている接着剤も溶かし除去します。この部分は天井の素材を出してしまいます。

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■ 接着剤塗布(下塗り)

接着剤を塗布する工程は、残念ながらお客様は参加できない工程となります。せっかくなのでやって頂きたい気持ちもありますが、やはり耐久性・品質を考えるとこちらで施工する必要があるのです。当店の作業にご興味のあるお客様は見学頂いても構いませんし、任せるから大丈夫というお客様の場合は、昼食に出かけて頂いても構いません。
当店では天井張替えに2種類の接着剤を使用し、塗布方法も刷毛塗りとスプレー塗布の2種類で行っております。まずA接着剤を刷毛で重要部分に塗布ししっかり乾燥させます。乾燥後B接着剤を専用スプレーを使用して先ほどのA接着剤を塗布した部分を含めて全体に吹き付けていきます。もちろん貼り付ける生地の裏面にも吹き付けていきます。
また当店で使用している接着剤はF★★★★(エフフォースター)ランクの接着剤です。F★★★★とは建材や塗料から放出されるホルムアルデヒドの量を示す等級の最上位ランクで、JIS(日本工業規格)やJAS(日本農林規格)によって認定されています。★の数が多いほど安全性が高く、F★★(ツースター)、F★★★(スリースター)、F★★★★(フォースター)の順で等級が上がります。
最上位ランクの接着剤を使用してはいますが、それでも完全乾燥までに3~4週間かかりますので、若干の溶剤臭が車内に漂う事があります。溶剤系の臭気に敏感なお客様もいらっしゃると思いますので、施工後は換気を多めにお乗りくださいます様お願い申し上げます。

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■ 接着剤塗布(吹き付け)

刷毛塗りの後は全体的にスプレーガンで接着剤を塗布していきます。重要なポイントはただ全体に吹き付けるのではなく、吹き付ける順番と量です。

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■ 接着剤塗布(生地側)

同様に生地側にも接着剤を塗布していきます。ボード側同様、重要なポイントは手厚く吹いていきます。生地の裏面に描かれている線が重要ポイントとなります。当店では天井用の生地の裏面に写真のような設計図を描きます。(設計図というほどの物ではありませんが)これにより無駄のない接着剤塗布を行う事が出来るのです。
先ほどの話と少しかぶりますが、F★★★★ランクの接着剤とはいえ、ホルムアルデヒドの発散量がゼロというわけではありません。よって使用する接着剤の量および面積は少ないに越したことはないのです。生地側の設計図が無ければ安全の為より多くの接着剤を塗布することになります。

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■ 貼り付け

ライナーボード側と生地側両方に接着剤を吹き終わったらいよいよ貼り付けを行います。この貼り付けの順番は天井張替え業者によって個性が出るところだと思います。私も過去から色々な順番で試してきて、現在の順番にたどり着きました。自分的には最善の順番だと考えています。

特にケイマン981型の場合お椀形状の為、職人によって張り方のコンセプトが様々だと思います。私自身他の職人がどのようなコンセプトに基づきどのような順番で貼っているのかは知りませんが当店の場合は以下のコンセプトに基づいて施工しています。

  • へこみ部は過度のテンションを作らない → 将来劣化時の垂れにつながる要素を軽減
  • 平面部は限りなくテンションを高く貼る → 見栄えの美しさ
  • テンションをリニアに変化させる → 平面部の美しさ

ちょっと専門的な話になってしまいましたが、ケイマン981型に限らずすべてのお車の天井に対して同一のコンセプトで施工を行っております。

ポルシェケイマン981天井張替え

表側が貼り終わったところです。ボードよりも大きく生地をはみ出させているのは、この後裏面へ折り返していくからです。純正も所々折り返されていますが、当店ではケイマン981型の場合はすべての端を折り返しています。

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■ トリミング、折り返し、穴あけ

表面が貼り終えたら、ここから先の工程はカッターを使用する為、都度お客様に参加されるか否かの確認を取らせて頂いております。というもの、カッターを使用した場合、手を切るリスクがゼロではない為、職業柄問題になる職種もあるためです。過去の事例では以下の職種のお客様はこの工程を辞退される確率が高いです。

  • 飛行機のパイロット
  • 外科医の先生
  • SE(システムエンジニア)

皆さん指先の繊細さを生業とした職業ですよね。何年もこの仕事をしている私でさえ、ちょっと急いでいたりすると手を切ってしまいますので、少しでも不安に思われた場合は遠慮なくご辞退下さい。
今回もお客様に確認させてもらったところ、「大丈夫です」との事だったので、ご参加頂きました。
写真は本日のお客様の作業風景となります。

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■ Aピラー張替え

トリミング、折り返し、穴あけが終了したところで天井はいったん置いておいて、今度はAピラー張替えとなります。今回特に純正の生地が垂れていたというわけではないので、あえて純正生地をはがさず上から貼り付ける方法を取りました。純正の生地をはがすかはがさないかは、端を少しはがしてみて決めています。今回の場合、無理やりはがしてしまうと、表面が荒れてしまう事がわかったので、はがさず上から貼り付ける方法を選択しました。ただ、先述した通り天井と同じ生地(ウレタン厚3㎜)を使用しますので、ただ貼っただけだともったりしてしまいます。可能な限りテンションをかける事によりウレタンをつぶして貼り付け、もったり感を払拭します。ここで生地の特性を知らずに施工すると仕上がりが非常にしょぼくなります。特に今回はメッシュ生地なので、テンションはかけるけどメッシュの目は荒らさない、これが出来なくてはダメですね。

ポルシェケイマン981天井張替え

写真ではわかりにくいですが、もったり感も極限まで抑え且つ、メッシュの目も荒らさず貼り付けました。
お客様も、もったり感に関してはご心配されていましたが、仕上がったものをご確認頂き安心されたようでした。

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■ 組付け

天井、Aピラー、本日張替えを行うすべての作業が終わったので、最後の組付け作業に移ります。組付け作業で一番難しいのは、ライナーを入れた直後、天井が手を放しても安定するまでの間です。今回はお客様がフロントガラス側、私がハッチバック側を担当しました。ケイマン981型の場合、マップランプの裏にガイドピンがあり、ここを一番最初に入れる事により原点が出ます。ここはお客様担当。
原点位置が確定したあと、ハッチバックに乗り込んだ私が後方の二つのクリップを入れていきます。これで天井の位置が正常な位置に置かれたという事になります。この位置がずれる前に天井に施されている6か所のマジックテープをつければ、もう手を放しても天井は落ちてこないので、ゆっくり部品を組み付けていくことが出来ます。きっと量産生産時もポルシェの工場ではこんな手順で作業しているんでしょうね。

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■ 完成

完成の写真を撮り忘れてしましましたが、Aピラーから天井までメッシュのブラックになり、引き締まった車内になりました。直前までブラックにしようかダークグレーにしようか、お客様は悩まれていましたが、マップランプユニットやサンバイザーを張替え用の生地の上に置き、確認されて最終的にブラックにされました。本日は助手作業お疲れさまでした!

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